※注意※
捏造人名が出て来ます
(ルーさん:ブラド ブルさん:クリスト)


















しくじった。
まさか、声が出ない事がこんなに不便な事だったとは―――



声には出ない本音



エリザベータが風邪をこじらせたのは、3日前の事だった。

仕事中から体に違和感を感じ、その日の夜には熱が39度まで上がってしまった。
食べる物も食べず化粧も落とさず、その日は少量の水だけを飲み、泥のように眠った。

幸い翌日はちょうどオフだったので、適当に栄養だけ摂り、満足するまで寝たいだけ寝た。
おかげでお昼過ぎには熱も下がり、体調もほぼ通常通りに戻った。


そう、喉を除いて。


眠りから覚め、ベッドから体を起こしたエリザは、ふと喉の違和感に気付いた。
なんだかやたら乾燥するような……少し腫れているような……

『まさか』と思い、声帯に力を込めるが、
スースーと空気が抜ける音がかすかにするだけで、しわ枯れ声すら出ない。
水を飲んでもうがいをしても、何をしても、一切。

痛みが無いため少し迷ったが、念のためと思い医者へ行くと、声帯が炎症を起こしているとの事だった。
薬を処方され、なるだけ声を出さないよう告げられた。
と言っても、もともと声は『出さない』のではなく『出ない』のだが。



次の日になっても、声は出ないままだった。
身振り手振りと筆談で、何とか仕事をして丸一日。
意志疎通に手間も時間もかかるため、気持ちはイライラするばかり……。

明日起きたら声が出るようになっていますように―――
そんな願いも虚しく、最悪の気分で目覚めを迎えたのが今朝の事だ。



今は月に一度の会議の真っ最中。
東欧諸国の代表……もとい、東欧諸“国”が集まって、
負債や社会問題、経済回復などの諸問題について議論していた。

声が出ないため筆談参加になる旨は、事前に参加国全員に断っておいたものの、
ヒートアップした議論の最中、エリザの言葉が書かれたスケッチブックに目を向ける者などは現れず……
最初の挨拶程度しか発言出来ぬまま、会議は終わってしまった。

小さくため息をつきつつ席を立つと、聞き覚えのあるいけすかない声が後ろを通った。

「じゃじゃ馬姫が、嘶きすぎて声枯れか?」

振り返ると、犬猿の仲のアイツ、ブラドがニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。

「俺達国の体調不良は、国民国土にも影響出るってのに、馬鹿だよな〜」

白い八重歯がチラチラと目に入る度、イライラが募る。
苛立つだけ損だ、そう自分に言い聞かせ、書類を鞄に片付ける。
スケッチブックを取ろうとした所で、ブラドの言葉に手が止まった。

「スケッチブック、誰にも気づいて貰えねぇでやんの」



思考が止まる。
まさか、見られていた? 気付いて貰えなくて、しかめていたあの顔を。
笑われていた? 悔しくて、泣きそうになっていた、あの顔を。


『気づいてたんなら……』

心の奥底から、沸々と怒りが沸き起こる。

『気づいてたんなら、一言皆に言ってくれたらいいじゃない!!』


言葉が、音とはならずに口から漏れる。

それを見て、ブラドが思い切り吹き出した。
カッとなってスケッチブックを投げつけ、ドアを叩きつけるように閉め会議室を後にしたが
物に当たった所で、全く気分はスッキリしなかった。


カツカツと、ヒールの音を響かせながら廊下を歩く。

『ふざけるな』
『信じられない』
『人を小馬鹿にしやがって』

浮かんでは消える罵声の言葉を次々口にしてみるが、やっぱりどうにも声にはならない。

絶対誰も気付いていないと思っていたのに。
あの誰が発言しているとも判らなかった騒ぎの中で、何故、よりによってアイツが。


ふと、歩みが止まった。


もしかして、心配してくれたのか。



『いやいやいや!ないないない!!』

きっと、ただ心の中で嘲笑っていただけに違いない。
そう考えると改めて頭に来たので、今日はお気に入りの洋菓子店へ寄って帰り、
好きな音楽でも聞きながらヤケ食いする事にした。




それから1ヶ月後、再び会議の日が巡って来た。

エリザの喉は、もうすっかり元の調子を取り戻しており、
前回の分も取り返すぐらいのつもりで、意気揚々と会場へと向かった。

会議室に着くと、既に何ヶ国かが到着しており、それぞれ談笑しながら時間を過ごしている。
エリザも軽く挨拶をしながら、用意された次席へと向かう。
“笑顔で挨拶”、たったそれだけの事も、今のエリザにはとても大切な事だと思える。

座席へ着くと、机の上に何かが置いてある。
胸に付ける名札と、会議の資料、喉が乾かぬようにミネラルウォーター、
それから、見覚えのあるスケッチブック。

あの時、ブラドに投げつけたままのスケッチブックだった。

アイツの事だから、即刻捨てるか、今後笑いのネタにするために取っておくか、
どちらにしろもう戻ってくる事は無いだろうと思っていたので、少し意外だった。

ページをめくってみると、あの日言いたくても言えなかった言葉達が、酷い字で殴り書きされている。
「我ながら酷い字…」
と、懐かしみを含め自嘲しながら眺めていると、
最後のページに、自分のものでは無い字が書かれている事に気がついた。


『早く 声治せよ』


デカデカと書かれた言葉の下に、『お前が大人しいとか、気持ち悪いからやめた方がいいぜ』と
わざわざ憎まれ口が付け足されている。

遠くでクリスト達と話しているブラドへ顔を向けると、
驚いたコチラの様子などには全く気も向けず、クリスト達と楽しそうに談笑をしている。

ふっ、と笑いがこみ上げ、
「とっくに治ったわよ。ばーか!」
と小さくつぶやいた。


議長国が遅れて到着し、やっと会議が始まった。
その日エリザが、いつも以上に発言をした事は、言うまでも無い。

会議終了後、いつもの様に交わされたブラドとエリザの口論は、
だが少し、お互いに楽しそうでもあったという話だ。










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2012年冬、風邪こじらせて声が出なくなった記念に(笑)
私は筆談一切せず、かすれ声だけで無理矢理会話してましたけどね!!!!

ルー×ハン目指して書きましたが、別に「×」じゃないですね、これじゃ……^^;

エリザさんには喧嘩相手たくさんいますね。
ブラドとギルの2人で、
エリザさんの悪口言ったり、2対1で口喧嘩したりするだろうか?
(なんつー男らしからぬwww)