蝶は嫌いだ。
ふよふよと浮く様に飛んで、掴み所が無い。
蜻蛉も嫌いだ。
目で追えない様なスピードで、気が付いたら横を通り過ぎている。
蟻だって嫌いだ。
手にいたと思ったら、次の瞬間には肩にいる。
払う間も無くどんどん侵入されてしまう。
蜘蛛だって、天道虫だって、蛍だって、蜂だって……
虫は全部嫌いだ……。
虫の巣探し
フェリシアーノと言う男は、俺が嫌いなどの虫にも似ている。
ふわふわと掴み所が無く、気が付いたらいつの間にかそこに居なくなっていて、
かと思えばいつの間にか俺の心にどんどん侵入して来る。
蜘蛛の様に俺を絡め取り、天道虫の様に愛らしい容姿で俺を誘惑し、
蛍の様に俺にささやかな光を与え、蜂の様に俺の心をチクリと刺して来る。
近寄っては離れ、離れては近寄り、そしてまた離れていく……。
俺は、奴のその抑揚に抗えない。
いつだって奴に翻弄されるがままだ。
アイツが俺の家を出て行ってから一週間が経った。
まるでそこにいるのが当たり前みたいに五日程居座った後、
六日目の夕方、奴は二人分の夕食を用意して待っていた俺の期待を裏切った。
当たり前の様に居座り続けるアイツを腹立たしく思っていたのに、
当たり前の様にして帰って来ないアイツにも腹が立った。
何より、当たり前の様に二人分の夕食を用意してしまった自分に腹が立った。
一体今は誰の家に居座っているんだろうか、
俺の知らない奴の家で、俺にした様に甘えているのだろうか、
またいつか、当たり前の様にして俺の所へ戻って来てくれるのか……
最初の頃はよくそんな事を考えたが、奴が俺の家への入り浸りを十三回程繰り返した今、
わざわざそんな事を考えようとは思わなかった。
思わなかったのだが……。
また暫くアイツは帰って来ないのだろうと判断した俺は、家の片付けを始めた。
アイツ用のパジャマ、アイツ用のカップ、アイツ用の歯ブラシ……
全てまた暫くは使われない物達だ。
俺は出しっ放しが一番嫌いだ。
何より、アイツの物が俺の家にあるのを見ていると、だんだんイライラとして来る。
それらを一緒くたに段ボールに入れ、戸棚の一番奥に仕舞った。
ふと、テーブルの上に出しっ放しで置いてあるパルメザンチーズが目に入った。
アイツが「よく使う物なんだからテーブルに置きっ放しでいいじゃない!」
などと言っていた事を思い出し、俺はまたイライラとして来た。
これも所定の位置に仕舞わなければ……そう思って手に取ると、
既に賞味期限が切れている事に気が付いた。
何だか不安になった。
もうアイツは自分の所へは戻って来ないんじゃないだろうか、
もうこの家に来る事は無いんじゃないだろうか、
そんな気がしてならなかった。
俺は急いで奴に電話をした。
焦ってしまってキーを打つのに手間取ったが、電話はなんとか繋がった。
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「あ、もしもしルート? 珍しいね、どうしたの?」
「フェリシアーノ、今どこにいる!? 誰と一緒にいる!?」
「ヴェ? 誰って……フランシス兄ちゃんと一緒にいるけど?」
「フランシスだと!? お前!!あの変態猫の所にまで転がり込んでいるのか!!」
「ヴェ!? ち…違うよ、ルート……」
「今からそちらに向かう!! いいか!? お前もフランシスも、フランシスの家から出るなよ!?」
「おッ……落ち着いてよルート!」
「何だ言い訳でもあるのか……?それならフランシスの家で聞かせて貰う!!!」
「違うってばルート!!」
「じゃあ何なんだ!!!!」
「……ココ、フランシス兄ちゃん家じゃなくて、俺ん家だよ……?」
「……」
「……ルート?」
「……フェリシアーノ、お前、俺の家を出て一週間、どこに寝泊まりしてた……?」
「どこって、俺ん家だよ? だってココ俺の家だもの」
……コイツにも家、あるんだっけ/(^O^)\!!
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「虫の巣探し」改め、「ルート君の盛大なる勘違い」(笑)
フェリシアーノはルートん家に泊まりに行くのに、アポを一切取りません
一方ルートヴィッヒは恋人の浮気相手の家に乗り込むのにも、堂々とアポを取ります…
タイトルは友人の美月が付けてくれました、ありがとう!!