「何であの野郎は俺の描いた絵をわざわざ廊下に飾ったりなんかするんだチクショ―!!!!
顔から火が出るかと思ったぞコノヤロ―!!!!」

俺は一人、部屋で布団にくるまりながら、大声で愚痴を漏らしていた。



聖母―前編―



「失敗したんだって言ったのに、んな事忘れて堂々と額になんか入れやがって!!
なぁにが『どうや!!嬉しいやろロヴィ!!』だチキショ―!!嬉しくなんかあるか!!!
確かに出しっ放しにしてた俺も悪いかもしれねぇけど……いくら何でも描き掛けの失敗作飾る事ねぇだろーが!!」

わぁわぁと喚いていると、後ろからクスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。

「ロヴィはようそんなぎょうさん喋れるなぁ、ウチやったら舌噛んでまいそうや」

振り返ると、ドアの傍にベルが立っていた。

ヤバイ、聞かれた。

そう思ってわたわたと弁解の言葉を探すが、「いや、あの、今のは……」から先が見つからない。
密かな想い人に醜い愚痴を聞かれてしまった恥ずかしさで、頭の中は完全にパニックだ。

「親分が『ロヴィが夕飯の時間に来ないやなんて!!』言うて心配してたで?」

「そっ…それは全部アイツが悪いんだチクショ―!!!」

マズい、ベルは俺の愚痴を聞いてやる体制に入っている。
そして素直な俺の口は、一番聞いて欲しく無い人の前で愚痴を零す体制に入ってしまっている。

「悪いのは全部、勝手に俺の絵を飾ったりしたアイツで…俺は別に何も……」

違う違う違う、アレは俺が絵を仕舞っておかなかったのが悪いんだ!!
そう言え!!じゃねぇと器の小さいガキくせぇ奴だと思われちまうだろ!!!

「ロヴィ、顔真っ赤やったもんなぁ(笑)そんなに恥ずかしかったん?」

「そりゃそうだろ!!アレは失敗作の、しかも描き掛けのヤツなのに……」

だったらさっさと処分すりゃ良かったじゃねぇか!!
格好悪いから他人のせいになんかしてんじゃねえよ!!!

「せやったん?ウチには失敗作には見えへんかったで?」

「失敗だよ…どう見ても光の入り具合がおかしかったし、色も変だった…
何より、欲張ってアレもコレもって描こうとするから、何が描きたかったんだかわかんなくなっちまってたし……
本当、俺の絵は下っっ手くそで、嫌んなっちまう……。」

もう駄目だ…愚痴だけじゃなく、弱音まで出てきやがった……。

怒って喚いて落ち込んで、格好悪い俺を見て、ベルは笑った。
すごく、楽しそうに。

そして、およそ信じられねぇような言葉を吐いた。

「ロヴィは、ほんまに可愛ええ奴やね」


「な…なんだよそれ!!笑うなよチクショ―!!!!」

俺は顔を真っ赤にして、それこそ、アイツがよく言う「トマトみたいな顔」になって怒った。

それでもまだ、ベルは笑う。

「そういう所も全部、可愛ええ奴やんなあ」


……チクショ―…まるで子供扱いじゃねぇか……。

好きな女に子供扱いされる事程、傷つく事は他に無い。
プライドがズタズタになった俺から出るのは、もう愚痴や弱音ですら無い、
いつもの「ちぎ―――!!!」という間抜けな鳴き声だけだ。

「そんなちぎちぎせんでもええやん(笑)
ほら、早よ行かんと。せっかくのスープ、冷めてまうで?」


チクショ―……何だよ、「ちぎちぎ」って……。
ベルといると、いつもこうだ……。

俺が格好付けようとするたびに、ベルは笑って俺を子供扱いして……
強がって取り繕うとしても、全部見透かされてて……

「悔しいぞ…チクショ―が……」

ボソボソとした俺の呟きが聞こえてか聞こえなくてか、
ベルはまた、ニッコリと、幸せそうに笑った。



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イメージソング、BUMP OF CHIKINの「リリィ」
タイトルは、「リリィ」つまり百合の花が、聖母マリアの象徴である事から。

ムノはよくBUMPの曲をイメージソングにSSを書きますが、
正直、そんなにファンな訳ではありません(笑)

解釈等、ファンの方からしたら間違っていると感じる所もあるかもしれませんが
そこは鼻で笑ってスルーして下さいネ

ところでコレ後半が書きたいんだが、南イタリアとベルギーの歴史がよくわかんなくて
続き書けない/(^O^)\