「鳥はいいなぁ…自由に空が飛べて……」
ありきたりな言葉をポツリと唱え、ライヴィスは一つ、大きな溜め息をついた。
片翼同盟
「また溜め息ですか!幸せが逃げてくですよ!!」
そう言って覗きこんで来たのは、彼の友達の、ピーターだった。
「なぁに?それ…何で幸せが逃げるの?」
「よくわからねぇですけど、前に本田が言ってたですよ」
ピーターはそう言うと、「はいっ」とライヴィスにメロンソーダを手渡した。
どうやら、彼の家の兵隊さんが用意してくれたようだ。
「それより、さっきは何独り言言ってたですか?」
「ああ…聞かないで、恥ずかしいから…」
照れ笑いをして隠そうとするライヴィスだったが、
ゴーイングマイウェイ・ピーター君にはそんな言い訳は通用しなかった。
「独り言は虚しいですよ…今ココでピーター君に話して、無理矢理会話にするですよ!」
言っている事が無茶苦茶だなぁ、と思いつつ、
ライヴィスはまた、さっきのフレーズを口に出す。
「『鳥は自由に空を飛べていいなぁ』って、言ったんだ」
そう言ってライヴィスは、再び空を見上げる。
「確かに、空を飛べたら気持ち良さそうなのですよ!」
つられて、ピーターも空を見上げる。
「ピーター君、いつか巨大な帝国になったら、鳥みたいに空を飛べる道具を作るですよ!
飛行機なんかより、ヘリコプターなんかより、もっともっと風を感じられる乗り物ですよ!!」
そう、語るピーターの瞳は、キラキラと光りを受けて輝いていた。
「ふふふ…ピーター君は凄いなぁ……
でも、僕が言いたいのは、そういう事じゃないんだ…」
ライヴィスは、ピーターの体である鉄骨の建造物に寝転がった。
視界に入った空は、どこまでも遠く澄み、どこまでも遠く続いている。
「僕は『鳥が飛べるから』羨ましいんじゃなくて、『鳥は自由だから』羨ましいんだ…。
よく聞くフレーズだけど…僕は本当にそう思うよ……」
「ライヴィスは、自由じゃないですか?」
ピーターは、ジュルルル…と音を立ててソーダを啜りながら尋ねる。
「うん…僕には上司がいて…国土があって…国民がいて…
それに…怖い…隣の国が…いるでしょう……?」
ライヴィスの声が、だんだん涙声に変わる。
ライヴィスがイヴァンの話をする時は、いつだって涙声だ。
「僕の翼は、イヴァンさんに片方もがれちゃったようなものだから…
どこへも、飛んでいけないんだよ……」
ライヴィスの声は、そこで途絶えた。
息をする音さえ聞こえて来ない。
呼吸を止めて、嗚咽が出るのを我慢しているんだと、ピーターには解った。
「……全く…お兄さんぶりてぇくせに、こうやって遊びに来ては泣いてばっかで、
ライヴィスは本当に世話が焼ける奴ですよ!」
早々に飲み干したソーダの缶をポイッと投げて、ピーターが言った。
「…世話が焼けるのはピーター君の方でしょう…セボルガ君に会っただけで大騒ぎして……」
「なっ!違うのですよ!! アレはセボルガの野郎が気に引っ掛かってたからで…!!」
「だから…人はそんな簡単に木に引っ掛かったりしないんだってば…」
「し、信じろなのですよー!!」
ポコポコと音を立てて怒ってみると、ライヴィスがあははと笑った。
よかった、元気にしてあげられた…
そんな事を考えながら、ピーターもライヴィスの横に寝転がる。
「大丈夫なのですよ!ピーター君も、まだアーサーの野郎に認められてねぇですから、
翼は半分だけなのですよ。ライヴィスとピーター君は、翼半分仲間なのですよ!!」
「……それって、どう大丈夫なの…?」
ライヴィスがいつもの困り顔をピーターに向けると、ピーターもいつもの笑い顔をライヴィスに向けた。
「ライヴィスに一つ、ピーター君に一つあれば、翼は二つなのですよ!
翼が二つあるから、二人で一緒に頑張れば飛んでいけるですよ!!」
自信満々に言うピーターを見て、ライヴィスは笑いが止まらなかった。
「それって、二人でやっと一人前って事じゃない…」
「なっ…ライヴィスはピーター君と二人じゃ不足ですか!!」
「ううん、凄く心強いよ。……ありがとう、ピーター君…」
「…へへっ、どういたしましてなのですよ!」
そう言って、また、二人で笑った。
「こら!ピーター!! ぽい捨てするなって前にも言ったじゃないか!!」
兵隊さんの努号が響く。
「やべっ」と一言、ピーターが走って逃げだした。
ピーターの謝る声と、兵隊さんの怒る声と、ライヴィスの笑う声を響かせて、
空はどこまでも遠く澄み、どこまでも遠く続いている。
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イメージは浜崎あゆみさんの「Endless sorrow」
元々は、この曲のPVをライヴィスとピーターでやったら可愛いかなぁと思ってたんだけど
んなモン描く余裕も根性も無いので、こういう形で消化させて頂きました!
セボ君登場の回では、ライヴィスのお兄さんぶりたい心がダダ漏れてますよね(笑)
「ああなんて君は手がかかる子!」……って、決めつけないの!!(笑)
ムノはお兄さんぶりたいライヴィスを愛で続けます^///^