「ルートはね!神聖ローマの生まれ変わりなんだ!!」

『ヴェッ、ヴェッ』という不可思議な鳴き声を混じり込ませながらそう言うソイツを見て
俺は初めて、近くに落ちていた木の棒きれで、ソイツのイカれた頭を叩いたんだ。




俺が初めてソイツの事を殴りたくなった時の事について




「ヴェ―――っ!!痛いよ――!何するんだよお!!」
「ああ…わりぃ、何か、何となく、急激に殴りたくなったモンだから…」


その日は、確か第二次大戦が始まってすぐの頃だった。
俺はまだその頃、ちゃんと枢軸国の一員で、ちゃんと合同訓練にも参加していて。
訓練早々一時間も経たないうちにバテた俺とソイツは、大きな木の傍らで、一緒に休憩をしていた。
尤も、一緒に=仲良くという事ではなく、それぞれがてんでバラバラに、昼寝したり、訓練中の奴らを観察したり、
歌ったり、何となく草をむしってみたりして、思い思いにサボっていただけだったのだが。

遠くから、ルートヴィッヒさんの努号が轟き響いて来るモンだから、俺は無意識のうちに

「おっかねえ声〜…」

と呟いていた。

そしたらソイツが

「でも何か、低くって、太くって、安心する声だと思わない?」

とかぬかしやがって、俺はいつものポーカーフェイスをすっかり忘れて、
思いっきりしかめっ面をしてしまったのだった。

「お前、アレ、安心すんのおかしくねえ?」
「ヴェ!安心するよお!!だって、アイツの声、俺が小さい頃好きだった奴の声にそっくりなんだもん!」

そんな個人的な理由で同意を求められても…とか考えたが、その辺りは口にしなかった。

「へー、随分イカつい声の女好きだったんだな」
「あー、ううん、女の子じゃなかったんだ。っていうか、俺が女の子だったの」

意味が解らなかった。
兼ねてより頭の悪そうな奴だなあと思っていたが、よもやココまでとは…そう思った。

「えっとね、その頃、俺は女の子の格好しててね、皆にも女の子だと思われてたみたいで、
俺も自分の事、男とか女とか、よく考えてなくってね、好きになる人が男の子か女の子かとかも気にしてなくって、
だから、俺は自分が男だって自覚一応あったんだけど、でもおんなじ男の子を好きである事には違和感とかなくて…」

ソイツは、必要もなく手足をバタつかせながら話した。
その運動量、訓練なんかより疲れるんじゃないだろうかと思わせるくらいのバタつきだった。

「でね、その頃好きだった男の子が、神聖ローマって子だったんだけど、
俺は、神聖ローマの家で暮らすたくさんの国や地域の中の一人で、いつもお掃除とか水汲みとかして働いてて、
その子とは、絵の描き方を教えたり、一緒に水遊びをしたり、俺がお腹すいてる時にご飯くれたりしてね!
あの時のご飯、すっげーマズかったなあ〜」

手足のバタつきは、言葉を重ねる程に大きくなり、俺の顔スレスレの所で手をぶんぶん降ってきたりした。
『うっとしいなあ』
そう言おうと思った時だった、そいつの手足の動きが突然止まった。

「……でも、ある日、神聖ローマのお家に住むたくさんの人が、喧嘩を始めちゃってね、バラバラになっちゃってね、
神聖ローマも戦争に行っちゃって、もう家には二度と帰って来なくって……」

ソイツの、いつもは閉じている目が、パッチリ開いていたのを覚えている。
確か、ソイツの目の色が茶色だと言う事にその時初めて気がついて、意外と地味な色だなとか考えたんだ。

「俺は神聖ローマの事大好きだったのに、離れ離れになっちゃって…
でも!神聖ローマが、出てっちゃう直前に、俺の事好きだって言ってくれたから、俺達、
『また絶対会おうね!』って約束したんだ!!」

ノーテンキで危機感なくて自分勝手で、『悩みなんてあんのかコイツ?』って思ってて、
ずっと気に入らない奴だったが、実は辛い思い出なんて持ってたんだなあ、とか
そんな事考えると、意外に嫌いにはなれなくて、『もしかしたら、この先、思ったより結構仲良くしていけるかも』
とか思った。
せっかく思ったのに、すぐ打ち壊された。

「そしたら、神聖ローマは本当に会いに来てくれたんだ!!」

気が狂ってるとしか思えなかった。
地味な茶色い目を、思いっっっきり輝かせて、嬉しそうに、楽しそうに、響いて来るルートさんの声に聴き入るそいつを
正気だとは思えなかった。

「ルートはね!神聖ローマの生まれ変わりなんだ!!生まれ変わって、俺に会いに来てくれたんだ!!」

怖かった。気味が悪かった。

気がついた時には、俺は落ちていた木の棒きれを握りしめていて、目の前には『痛い、痛い』と騒いでいるソイツがいた。

「ヴェ―――っ!!痛いよ――!何するんだよお!!」
「ああ…わりぃ、何か、何となく、急激に殴りたくなったモンだから…」

軽く謝って、体を引いた。
妙に、近づきたくない、そんな気分だった。

遠くから『いつまで休憩している気だ!!!』というルートヴィッヒさんの低い声だ聞こえて来て、
『今行くであります!!』と走るソイツの、だんだん遠ざかっていく背中を、木の棒きれを握りしめながらしばらく見つめ、
渋々、自分も訓練に合流したのだった。

俺が、初めてフェリシアーノを殴りたいと思った時の話。



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なんか、別に、特に意味は無い話です。

・ルートの事を、神聖ローマの生まれ変わりとしていか見ていない、真っ白なヤンデレフェリシアーノという妄想
・クリストも、最初の頃は合同訓練に参加していたんだろうかという疑問
・フェリシアーノをぺしーぺしーするクリストが書きたいという願望

この辺りが、脳内ミキサーでシェイクされて出来上がった話。