「さぁ、今ここに開催されるは『恥じらい』を使った料理対決。
司会者は吾輩、永世中立国スイスが務めさせて頂くのである!!」
ああ…一体何故この様な状況になってしまったのか…
後悔を始めるドイツを横目に、奇妙な対決は幕を開ける。
「恥じらい」を使ってお料理を作ろう!
爽やかな風が吹き抜ける秋の日だった。
その日行われた日本の大手車会社のパーティーには、各国の偉い方と、各“国”が数人、来場していた。
「ふむ、さすが日本の家の車は性能がいいな」
「いえいえ、ドイツさん家の車には適いませんよ」
ドイツも、酒を片手にそんな話をしながら、パーティーを楽しんでいた。
ふと、飾ってある花に目が止まった。紫色の小さく可憐な花、どこかで見た覚えがある。
数年前の、バレンタインの日、勘違いをして、友達に贈った花。それと同じ花だ。
思い出した途端、ドイツの顔は赤らんだと同時に青ざめた。花と同じ、紫色である。
激しい勘違いと、恥ずかしい失敗。彼にとっての、いわゆる黒歴史だった。
花を見つめたまま体を固め、ぴくりともしないドイツの周りに、「はじらい」と書かれたハートがぼたぼたと落っこちた。
「ど、どうしたんですかドイツさん!?」
日本が心配そうにドイツを覗き込む。
「ウ゛ェ〜、これなぁに〜?」
くるんをひょこひょこさせて、イタリアが「はじらい」を拾う。
「おいおい、なにやってんだよ……」
「レディ達が見てるぞ?」
イギリスとフランスも寄って来た。
「お前はまたこんなものを落として!!昔と何一つ変わっていないではないか!!」
そう言ってスイスが駆けてくると、いよいよパーティー会場の全客の目がドイツへと集まった。
「あ!!あぁ、いや、すまない……ここは自分で片付けるから、気にせずパーティーを楽しんでくれ……」
ドイツは紫色の顔のままうろたえる。
「そうは言われましても…」
と、心配のそうな目を向ける日本の後ろで、イギリスがイタリアの持っているハート型の物を見て言った。
「ん?『恥じらい』?ハッ、なんだか変態的な響きだな」
「そう?お兄さんには甘美に聞こえるけどな」
「何を言っているんですか!!『恥じらい』は萌えでしょう!?」
「ウ゛ェ〜!!『恥じらい』ってもっと甘酸っぱい気持ちだよ〜」
さっきまでのドイツへの心配はどこへやら、4人は客の視線も気にせず「恥じらい」談義を始めてしまった。
「『恥じらい』は変態要素だろ!?」
「いいや、甘い響きだね」
「萌えですってば!!」
「もっと可愛い事考えようよ〜!!」
「……あいつらは人の恥じらいで何をしているのであるか」
「俺に聞かないでくれ……」
そんなこんなで発展した「恥じらい」談義は、日本の「私が一番恥じらいを美味しく頂けます!!」という一言から、変な方向へ矛先を変え、
最終的には「恥じらい料理対決」という意味不明な所へと行き着いた。
もうそこは、車会社のパーティー会場などではなく、一つの立派な戦場と化し、
誰がどこから用意したのか、ゲスト用の椅子と4人分のキッチン台が設けられていた。
何故か司会者をかって出たスイスが高らかに叫ぶ。
「エントリーNo.1!!フランス!!」
「ボンジュール!!フランスお兄さんだよっ
まずは『恥じらい』を適当な大きさに切り、じっくり煮込むよ!!
裏ごしして生クリームを加えたら、お兄さんの得意分野『エロス』の登場さ☆
『エロス』を加えて味を整え、皿にお洒落に盛り付けたら……
フランス特製『官能スープ』の完成さ☆」
その香りの良さ、見た目の美しさに、客たちは感嘆の声をもらす。
「次はエントリーNo.2イギリスである!!」
「料理は見た目より味、味より愛情が大切なんだよ!!
まずは『恥じらい』をふるいにかけ、シュガー、バターを加えたら手で潰すように混ぜる!!混ぜる!!混ぜる!!
そして『恥じらい』ベースの生地に『解放』を加え!!さらに隠し味に愛情たっぷりの『皮肉』を一言!!クラウツの遅漏くそ野郎(ぼそっ)
オーブンに入れて焼いたら…
出来たぞ!!俺の得意料理!!『変態スコーン』!!」
焼きたてほこほこのスコーンの見た目に、客がどよめく。
「エントリーNo.3は日本なのである!!」
「シンプルisベストで行きます
『恥じらい』に酢を加えて手早く混ぜ、『隠す』という行為を刺身にし、山葵をつけて握ります!
『恥じらい』を『隠す』事により生まれる、見えそうで見えない正に神の領域……
『萌え寿司』の完成です」
キラキラと輝く新鮮なネタに、客たちの唾を飲む音が響いた。
「最後はエントリーNo.4のイタリア!!」
「ウ゛ェ〜♪料理は美味しく楽しく!!だよ☆
まずは小麦粉に水と塩と『恥じらい』を混ぜて練り込むよ!!形を整えたらお鍋で一茹で♪
次はソースを作るよ!!牛乳と生クリームを煮て、更に『恋心』を入れて煮て…
茹で上がったパスタにソースをかけたらッッ
美味しい『初恋カルボナーラ』の出来上がりだよ☆」
食欲を誘う匂いに、観客たちの盛り上がりは最高潮に達する。
「4品の料理が出揃ったのである!!さぁドイツ!!どの料理が1番が選ぶが良い!!」
「……………」
大きく声を響かせるスイスに対し、ドイツは下を向き黙ったままだった。
「ウ゛ェ…どうしたの?ドイツ」
「ドイツ、さん……?」
「貴様ら……」
「は?今何か言ったか?」
「お兄さん聞き取れないよ〜」
一瞬の間を置き、大きく息を吸ったドイツが言い放つ。
「生ぬる---------い!!!!」
「「「!?」」」
「全員列に並べ!!貴様らは『恥じらい』というものを全ッッく理解していない!!!
『官能』だ?『変態』だ?『萌え』だ!?『初恋』だ!?
『恥じらい』の真意とはそんな所にあるのではない!!」
そう言うとドイツは、その場の全員が唖然とする中、キッチン台へと立った。
「今から俺が貴様らに『恥じらい』とは何たるかを教えてやる!!!!
まずは挽身にした『恥じらい』をグチャグチャに混ぜ、更に『恥じらい』を投入する!!更に『恥辱』を入れて混ぜ合わせ、形を調え焼く!!
『罰』と『褒美』で作ったポテトサラダを付け合わせたら……
『ドSハンバーグ』の製作完了だ!!!!!」
そう言い切るドイツの気迫に、観客・出場者全員がスタンディングオベーションで答える。
「優勝はドイツ!!満場一致でドイツの優勝なのである!!!!」
スイスの一言に拍手が一層大きくなる中、ドイツは思った。
ああ…一体何故この様な状況になってしまったのだろうか…、と。